結婚と再会と僕の生きる道

2008年8月26日(火) 01:35 | 日記

ケーキ入刀
その現場は、まるで同窓会のようでした。

8月23日、夜。名古屋にて。
かつての職場の先輩が結婚したということで、結婚式の二次会に出席しました。
Zさん(仮名)は今、名古屋の某パチンコ雑誌で営業部長を務めています。

2000年7月。僕は23歳の若者でした。
4月にライターの事務所を辞めて、しばらくフリーターをしていました。さすがに定職につかないとまずいと思い、求人誌で見つけたのがあの出版社でした。
面接のとき初めて、その出版社での仕事が風俗誌の編集であることを知りました。でも僕は迷うことなく、そこで働くことを決めました。
Zさんはすでに、中堅の編集者として働いていました。とはいっても、Zさんが入社したのは僕よりたった9か月前。とにかく人の回転が激しい会社だったので、1年もいれば中堅、2年でベテラン扱いでした。
風俗誌の編集はクオリティではなく、量とスピードが求められました。Zさんは文章のクオリティは誰よりも高く、変態的なセンスがあふれていたのですが、なにぶんスピードに欠けていました。上司やデザイナーの人たちに、よく文句を言われていました。でもその人柄によって、誰からも、そして誰よりも愛される存在でした。
僕が入社した時点で29歳でしたが、とてもそうは見えませんでした。年齢以上に老けた風貌がまた、編集部のマスコットとしての存在感を浮き立たせていました。
Zさんとは2年ほどいっしょに働きましたが、いろいろあってZさんは僕より先に会社を去りました。その後はずっと疎遠になっていました。再会できたのは、僕が東京へ引っ越した後の2006年秋。飄々とした語り口や微妙なメタボ体型は相変わらずでした。

そんなZさんが結婚したと聞いて、東京から駆けつけたのは、僕だけではありませんでした。

東京からはアダルトビデオの監督にエロ雑誌の編集者、言論誌や娯楽誌のライター。四国からはフリーのカメラマン。地元の名古屋からはフリーの編集者にデザイナーにカメラマン、パチンコ雑誌の編集長、大手広告代理店の関連会社の営業、そして今もなおあの会社で働いている人たち。
多くの先輩が、今も出版業界の周辺で、あるいは全く別の業界で、しぶとくがんばっています。
Zさんのことも気になるけれど、かつていっしょに働いた人たちが今どこで何をしているのか、きっとみんな気にかけていたんでしょうね。だからこうしてたくさんの人が集まったのでしょう。
この日記で何回かあの会社のことを悪く書いていますが、労働環境は最悪でも、そこに集まったのは実に多彩で、面白い人たちばかりでした。実際のところは玉石混淆で、すぐに逃げてしまった人、薬におぼれて辞めていった人間もいたりしましたが、ああいう業界だと知っていながらそれでも残る人は例外なく個性的で、僕の存在なんてかすんでしまうほどでした。

「ちまちまと恋愛なんてしてる余裕はなかったから」と本音を漏らした37歳は、人生最初のお見合いで出会ったその人と、一気に結婚まで突き進みました。人のよさそうな顔をしているのに、やるときはやってくれます。
ただZさんはお嫁さんに、昔の仕事のことを話してないそうです。この日も「面白い男の人がいっぱい来るから」とだけ伝えたんだとか。北関東の田舎から単身で名古屋に嫁いで、右も左も分からない状況の中、まるで移動動物園のような鬼畜野郎どもを見て、後悔していないかちょっと心配です。というか、後でいろいろばれてしまっても大丈夫なんでしょうかねZさん。

ともあれ、あのZさんの幸せそうな姿を見て僕もうれしかったし、ひさしぶりに昔の仲間に会えて楽しかった。

いわゆるエリートコースから自ら道を踏み外し、その場その場で面白そうだと思ったことを選び続けてきたことで、得たものもあれば、失ったものも計り知れません。僕と同じ大学を卒業した友人の多くは一流企業に勤め、僕よりずっと多くのお金をもらっています。本当に自分はこれでよかったのかと後悔することもあります。
それでも、月並みな言葉ですが、これまで僕はお金では決して買えない貴重な体験をしてきました。自分が他の誰かと違う人間であること、きっとそれが僕の生きる意義で、あの日の「同窓会」は、僕の生き方を追認する場になったような気がします。
子供の頃から「人と同じことをしたくない」という思いが人一倍強い、ひねくれた人間でした。たとえ金銭的に恵まれなかったとしても、「生きる意義」を今後も優先し続けると思います。

そして、おそらく僕と同じようにひねくれた人間だったZさんが結婚したこと、しかも37歳という年齢だったことは、31歳の僕に勇気を与えてくれました。もしかしたら、いつか僕にも順番が回ってくるかもしれない。そんな淡い期待を抱かせてくれます。もっとも、僕にはZさんみたいなやさしさや人柄のよさは全くないので、現実的にはものすごく難しそうですが…。
まあ僕のことはどうでもいいです。そんなことより、Zさんがちょっと照れつつ、柄にもなくあんなにうれしそうにしているところを見られただけでも、名古屋まで行ったかいがあったというものです。

おめでとうございます!

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